乳がんの喫煙被害
喫煙は乳がんを増やすと同時に、女性ホルモンの分泌と働きを抑制するので、話が若干難しくなります。
女性ホルモンは乳がんの発育を促進しますが、その女性ホルモンを抑制するということは発がん作用を弱めることになるからです。
喫煙によって乳がんリスクを増やすとの統計的有意な因果関係を示した研究は多数報告されていますが、そのうちの5分の1位が、喫煙によって乳がんがおこりくくなるという研究もあり、厳密に言えばまだ結論はでていません。
受動喫煙では、複数の調査によってリスクの上昇が報告されています。
カナダ厚生省の研究では、閉経前後で分けた受動喫煙の評価も行われています。
これによると、非喫煙者における閉経前の乳がんのリスクは、受動喫煙によって2,3倍になります。閉経後の乳がんのリスクも、非有意ながら受動喫煙によって1,2倍になります。
多くの研究者が、能動喫煙と受動喫煙の影響を同じ調査で評価していますが、複数の研究で受動喫煙が能動喫煙と同等か、それ以上のリスク比を示しています。
スイスのジュネーブ大学では、N−アセチルトランスフェラーゼ2(NAT2)という体内酵素の遺伝型を調べた上で乳がん患者177例の症例対照調査を行っています。
人口の約半数いる「早いNAT2」の人で、受動喫煙にさらされていない非喫煙者と比べたとき、現在の1日19本までの喫煙で3,1倍、20本以上の喫煙で5,3倍という結果になりました。受動喫煙では5,9倍になります。
受動喫煙のほうが影響が明らかなのは、能動喫煙ではニコチンの抗女性ホルモン作用によって発がん作用が弱められますが、受動喫煙ではその恩恵にあずかれず、発がん作用だけが相対的に大きくなるからと考えられています。
肺がんを発生させやすい気体物質のニトロサミンは、粒子物質であるニコチンと違い、喫煙者と受動喫煙者で吸入量に差がないことも知られていますので、理屈に合います。
乳がんとは?
乳がんは、乳房にできる悪性腫瘍です。
乳房の中には乳腺といわれる組織があります。乳腺は、乳汁をつくる腺胞という小さな腺組織の集まりで、ブドウの房のようになっていてそれぞれが乳管で連結されています。
乳がんの約90%は、乳管から発生する乳管がんで、乳頭に発生するパジェット病などいろいろあります。
年間約3万人に発症し、約9000人の方が亡くなっています。
タバコとがん
タバコに含まれている40〜50種類にも及ぶ発がん物質は、肺や喉などの煙かふれるところだけにがんを作るのではなく、飲み込まれて消化器のがんを作り、ハイカラ血液中に吸収されて全身の臓器のがんの原因になります。
受動喫煙によっても様々ながんを発生させます。
受動喫煙によってすべてのがんのおこる可能性が1,6倍に増えますが、これは原子爆弾に2,5Kmの至近距離で被爆する危険性に匹敵するほどです。
その中でも特に危険な物質は、ニトロサミンという煙の気体成分に含まれる発がん物質の吸入量は、8時間の受動喫煙によって能動喫煙約10本分にも相当するほどです。